浮上、そして避難

2006年5月14日
押し黙っていたら、粘着性のどす黒い物体に心を塞がれそうになる。

さすがにこれはイカンと思い、密かに「緊急避難シェルター」として心の拠り所とさせて頂いている友人のしえちゃんに、急だけど飲みに行かないかと震える手でメールを打つ。(いや、震えてないけど気持ち的に)

すると、しえちゃんはちょうどヒマだったらしく、ふたつ返事で快諾してくれた。それを見た時に全身の力がガックリ抜けたのを実感して、私は自分が思っていた以上に張り詰めていたことを知った。

待ち合わせの場所に着き人ごみの中を見渡すと、まるで吸い寄せられるように私の瞳はしえちゃんの姿を捉えた。約半年ぶりに会う彼女は、お世辞にもお洒落な服を着ているとは言えず、まるで近所のスーパーに買い物に来たような風体で顔はスッピンだと言うのに、とても美しかった。

そう、しえちゃんは美しい友人だ。でもその美は、例えばモデルを見た時のように万人が共感できる類のものではなく、彼女の内側から匂い立つような淡い美の気配を感じることができる人にだけ、伝わるものだ。

そして知ってか知らずか、会って1分も経たないうちに彼女はその気配のスイッチをいったん切ってしまう。「和光同塵」なのだ。それは私も、似たようなことを無意識にしているから判る。歯が浮くような比喩を敢えて使うとすれば、天女が地上に降り立った時にその神々しいまでの美しさを隠し平凡な女に見せかけるようなものだ。(そんな物語があったかどうかは不明)あ、私の場合隠しているのはそんな良いもんじゃあないわよ。


それから私達は1件目のお店で閉店までいて、それでも話し足りなくてもちろん飲みも足りなくて2件目のお店でさらにパワーアップして飲み続け、腹筋がゆるゆるになるまで笑い続けた。

お蔭で全身のこわばりが取れ、心に迫り来る暗雲は怒涛の高気圧に吹き飛ばされてしまった。私達は、その昔同じ釜の飯を食っていた頃に戻ってしまい、もう言葉もそんなに必要なくなりお互いを叩いたりさすったりつまんだり撫でたりのスキンシップで満足してしまった。すでにお酒は限度を越えた量になり、ハタから見たらかなり怪しい状態だったと思う・・・。

「眠いね。」のひと言であっさりと店を出る。

もうとっくに電車は無くなっていたので、タクシーを拾うしかなかったが駅前にいくらでも並んでいたので苦労しなかった。

じゃあね、と手を振る。そう言えば別れ際にウダウダしないのも、しえちゃんの好きなとこだったと思い出す。

ありがとう、友よ。


午前3時・・・・

私も、慣れないタクシーの座席に身を沈め深夜の繁華街を後にした。

携帯には、1時間前にタカが送ってくれたメールがあった。

今日のちょっとした出来事と、私を気遣う言葉があって、おやすみの挨拶。

そして最後にひと言

「テハヌーが恋しい」



朦朧とした頭がその文章を理解し、それから麻痺して膨れ上がっていた心がその意味を受け取りギュッと痛んだ。



空いた国道を飛ばすタクシーから見る深夜の街は

20歳の私が生きていた場所そのものだった

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